さて、今回は、ヘッジファンド手法の一つである「マーケット・ニュートラル」をご紹介したいと思います。
マーケット・ニュートラルとは、その名の通り、“市場に対して中立を保つ”という意味です。例えば、株式の売りと買いを組み合わせることによって、相場が上昇局面にあっても、下降局面にあっても、着実に利益を得ようという考え方です。
株式を「買う」という行為はお分かりだと思いますが、株式は信用取引を行えば、株を持っていなくても「売る」ことが出来ます(空売り)。
従って、この「株を買う」という行為と、「売る」という行為を同時に行う事により、リスクを減らして、確実にリターンを得ようという考え方が、マーケット・ニュートラル手法です。
では、具体的に株式の取引で考えてみましょう。
例えばここに自動車メーカーのA社とB社があったとします。A社の株価は現在100円、B社の株価は50円としましょう。
ところが、私が実際にこの2社の財務内容や将来性を分析してみると、どう考えても、A社がB社の株価の2倍なのは、おかしいという判断になりました。
そして、「A社が100円ならば、B社は80円くらいが適切な価格である」という結論に達したとしましょう。
分析による理論上の株価
A社 100円
B社 80円
実際の株価
A社 100円
B社 50円
ということは、言い方を代えると、「A社はB社に対して割高、B社はA社に対して割安」ということがいえます。
そこで私は、割高なA社の株を売って、割安なB社の株を買います。
何故そんなことをするかといえば、「株価は適正な価格水準に近づいていく」という仮説に基づいているからです。従って、時間の経過と共に、AとBの関係が10:5から、次第に10:8に近づいていくと考えたのです。
では、実際に市場の動きに合わせて考えて見ましょう。
まず、相場が「ほとんど動かないような局面」では、
A社 100円 (ほとんど動かない)
B社 80円(割安なのを見つけた人が買い始め、80円に近づいていく)
ということが、起こってきます。
すると、私の損益は、
A社 100円-100円=0
100円で売ったものを100円で買い戻す。
空売りした株は、必ず買い戻さなくてはなりません。
B社 80円-50円=30円
割安だったB株は徐々に買われて80円で売れました。
差引損益として、30円利益ができました。
次に「上昇局面」ではどうでしょうか?
相場が上がっているので、AもBも株が上がります。
但し、もともと割高なAよりも割安なBの方が、値上がり率が高くなります。
A社 120円(20円上がる)
B社 100円 (割安なBは50円上がる)
とすると、損益は、
A社 100円-120円=-20円 (100円で売って120円で買い戻す)
B社 100円- 50円= 50円(50円で買って、100円で売る)
差引利益は、こちらも30円となります。
では最後に、相場が「下降局面」ではどうなるでしょう?
AもBも株価は下がりますが、割高なAの下げは、Bより大きくなります。
A社 60円(割高なので、40円下がる)
B社 40円(割安なので、10円しか下がらない)
すると、損益は、
A社 100円-60円= 40円 (100円で売ったのを60円で買い戻す)
B社 40円-50円=-10円(50円で買って40円で売る)
差引利益は、ここでも30円となるわけです。
ここで言う割高とか割安という言葉は、あくまでA社とB社を比較した“相対的な関係”での事です。
そう、もうお気づきの方もいるかと思いますが、ここで重要なのは、A社とB社の“株価の差”だけなのです。従って、この場合両者の適正な株価の差が「20円」であると、判断した私は(10:8が適正と仮定したので)、100円と50円の差である「50円」は、必ず縮まると判断して、割高なA社を売って、割安なB社を買うという取引を行ったわけです。
このように、相場が上下動しても、着実に利益獲得を目指すのが、「マーケット・ニュートラル」と呼ばれる手法です。